“幸せの処方箋”
    『恋愛幸福論で10のお題 Vol.7』 より

〜カボチャ大王、寝てる間に…。Z

*最初のお話→ 最初のお話***
                 以降、続編の一覧へ→ かぼちゃ大王 一覧へ***


 領土各地に於ける秋の収穫も着々と進んでいるようで。各地方からの収穫の報告や、税として納められたる作物の到着、それと同じく城下へも持ち込まれるあれやこれやへ、大地の恵み、豊饒の幸いを喜ぶ人々の声や笑顔が引きも切らない。そんな暖かな秋も、そろそろ次の季節への移り変わりの兆しを見せ始める頃合い。

 “コスモスも もう終わった頃なんだろうな。”

 降りそそぐ陽はまだ暖かいそれだのに、昼を回るとすぐにもというほど、ずんと早くに金色を帯び始めるようになったなと。そういったささやかなところへ、秋も過ぎゆくと早々と感じ取っていた少年が、王宮の中という意外なところにも これありて。にぎわい見せる城下を従えてのそびえ立つ楼閣もおごそかに、堅牢荘厳なことを感じさす、広々とした王城の中。内宮と呼ばれる、王族の方々の私的な居住区の中庭で、花壇の手入れをせっせと手掛ける彼こそは。小早川瀬那という内務官の少年で。現・皇太子である清十郎殿下のお傍づき、という役職を、一応の肩書として与えられているがための“内務官”だが、実質、何かしらの執務、お役目があるという身でもなくて。国務政務にお忙しい殿下の、身の回りのお世話をしたり、大変なお務めから解放されたひととき、寛いでいただく傍らにあって、お話相手になって差し上げたり。小さくて愛らしい、その可憐なお姿にそぐうよな、やさしいお役目をこなしておいでというところ。

  もっとも

 本来であるなら、この彼へはどんなに感謝しても足らぬほど、殿下のみならず国自体さえ、救ってもらったというあれこれが、庶民国民へは内緒ながらあったりしたりするものだから。殿下も国王陛下も、それからその周囲の人々も。何もしなくていいのですよと、王族に並ぶほどものお立場へ遇しても足らぬというほどに、敬愛込めて接しておいでの小さな貴人。

  もっと正確なところを言うならば

 清十郎殿下が、こちらの彼を常に身近に置いておきたいと。その優しい慈愛の心を愛でられてのこと、手放し難いと仰せになっての、むしろ懇願から。王宮内に居ていただいているというのが、最も正しいお話の順番なのであり。したがって、彼を単なる小姓扱いと見做し、見下すような言動をした勘違い野郎…もとえ、思慮浅い客人なんぞがおいでの際は。王宮中の人々が一人残らずのこぞって、追い出す算段に張り切るほどだとか。

  ま、そんな底の浅いお話はともかく

 いつぞやに とあるお菓子屋さんお出入りのお百姓さんから、手間の要る栽培を引き継いだ珍しい黒まめや、まもりお姉さんから使い方を教わったという薬草。それと、お気に入りのお花の数々を、彼が手づから丹精している一角があって。このご城下は暖かいほうだとはいえ、それでもそろそろ秋のバラも終しまい。ポインセチアやシクラメンは、それを専門に育ててらっしゃる庭師の方がおいでになって。じゃあボクは何を育てようかなと思いつつのとりあえず、次の季節までをお休みする、バラの株のお手入れをしてやっておいでのセナのところへ、

 「あ、こちらにおいででしたか。」

 そんなお声が掛けられて。今は丁度、清十郎殿下の執務のお時間。国務官を相手の、次年度の方針や何やへの詰めという、複雑で大事な討議とあって。こればっかりはセナが同席していても何というお手伝いも出来ぬから、こうしてお庭にいた彼なのだが、

 「?」

 何という約束をしたお人がいた覚えもなかったが、それでも、侍女や内務官の方々と、あれこれ打ち合わせることや何かもなくはない身。何か急な御用なのだろかと、土いじり用の手套を外しつつ、お声を掛けて来た人のほうを向く。前掛けをしたその人は、お城では見かけたことのないお顔。人の良さそうな笑顔をしたおじさんで、

 「セナ様、でございますね?」
 「え? あ・はい。」

 お名指しでということは、やはり…今は誰も此処にはいないが、庭師の誰かと間違えられてる訳でも無さそうであり。何か?という素振りにて、小首を傾げてこちらからも歩み寄れば。王宮内のこんな奥のほうまで入ったのは初めてなのか、少々遠慮気味に…庭の端の枝折戸からそれ以上は踏み込めずにいたおじさん、自分の後ろに引いて来たらしい、小さめの手押し車を振り返り、

 「ご注文がありました、小麦粉をお持ちしたのですけれど。」
 「………はい?」

 馬に引かせるほどでもないが、長々運ぶには重そうな荷。丁度、女性では一抱えに苦労しそうなほど育った子供くらいだろか、粉の詰まったそれらしい、大きな袋とそれから。レンガのような長四角の包みや、蓋つき・提げ手つきの缶もあり。

 「ついでにと他の店へのご注文、
  バターや生クリームもご一緒にお持ちしたのですけれど。」
 「………えっと?」

 そうか、見覚えがなかったはず。日頃は厨房や食材管理の倉庫の方までしか出入りせぬ、粉屋のご主人だったからで、だが。

 「あのあの、ボクが何か注文したということでしょか?」

 食べるものも用意していただいてる、お部屋には着るものが季節に合わせてどんどん増えており、昨年のがまだ着られますのにと、恐れながらと減らして下さるよう進言したくらい。そんなくらいに何でも揃っているお城なので、セナの側から何かしら、これが要りようと誰かに頼むよなシーンは殆どない。こういう庭のお手入れにしても、庭師の方々が気を利かせ、次はこれが要りますでしょう?と前以てご用意して下さるくらいだし、ましてや…

 “小麦粉にバターに生クリームって…。”

 それって何だか、あのその………と。それらから連想出来るものが、ない訳ではないセナだったりもしたのだが。

 “でもやっぱり、覚えは……。”

 そんな戸惑いを小さな肩へと乗っけたまんま、どうしたものかと案じておれば。

 「………あっ。」

 そんなセナのやはり小さな背中へ、とんと軽くたたくよなお声が背後から放られた。え?と振り返ったセナの向こうへと、粉屋のご主人も首を伸ばし。そして。こちらの二人を見やったその人は……微妙に口許を引きつらせてしまう。そしてそして、

 「高見様?」

 セナの疑問はますます深まったのであった。




     ◇◇◇



 「厨房担当者へ、彼が来てこれらは何処へと訊かれたら、
  内宮へ案内してやってくれという言い方をしていたものだから。
  勝手に“セナ様がご注文なさったのだろ”と思った者がいたのでしょうね。」

 何しろ、指定したのが高級上質の粉やバター。当たり前に食していて“ご用達”としている王族でもない限り、よほど裕福な人しか口には出来ぬ等級のものであり。それを使うだろう厨房へではない、内宮への持ち込みなんて、滅多にあることじゃあない。此処で働く者の買い物ならば、自宅へと頼む筈だから、となれば…と、思った者がいても不自然ではなく。今になってそうと気づいた高見さん、荷車ごと粉屋さんから引き取った物品を前に、微妙に“困った”というお顔をしておいで。

 「もしかしてご実家へのお届けでしたか?」

 何か他にも添えるものもあってのそれで、一旦 ご自分の手元へと、持って来させたお取り寄せ。ただ…そんな私的な御用だったのへと気が引けて、自分が応対すれば問題もなかろうと、名乗ってなかったものだから。こんな運びになった……ということかなぁと。日頃、それは生真面目な内務官様へ、おずおずとした声を掛けたセナであり。お優しくって周囲の人達からの信望も厚く。勿論のこと、その誠実なお人柄から、清十郎殿下からも一番の信頼を寄せられておいでの、言わば未来の重臣で。何かしらの“ズル”をした訳じゃあない、ただ、大っぴらに贅沢品を取り寄せてますとひけらかすのがイヤだったんじゃあと、こちらはこちらでそんな推量を立ててのこと。内緒にしときますからと、言いたくてのお声掛けをしたセナだったのだが。

 「……違うのですよ、セナ様。」

 潤みの強い大きな瞳の、そりゃあ愛らしくも、無垢なお心をした小さな忠臣。生真面目であったからこそ様々に苦難苦衷が降りそそぎ、実の兄だった先の皇太子殿下からひどい誤解を受けた挙句に、下手をすればご自身から討たれてもしようがないとまで思っておいでだったらしき、あの、頑迷なほど実直な清十郎殿下を。お心でもそして、奇跡からも、支えておいでの天使のような少年が、その純真なお心に一体どんな想いを組み立てたか。こちらさんはその聡明さからすぐにも察したらしい高見さん。ますますのこと、だが今度は苦笑という格好で、いかにも“困ったなあ”というお顔になってのそれからね?

 「一つ、約束をしていただけませんか?」
 「はい?」
 「そう。この荷に関しては、
  私が個人的に取り寄せたものが、
  セナ様の手元へ運ばれかかったということにしていただくとして。」

 あああ、やっぱりあっさりと読み取られておりましたね。でも、このお言いようだということは?

 「…そうではない何かへの、約束でしょうか?」

 策謀なんてな物騒なことへは、なかなか察しの遅い彼なれど。飲んでもいいですよとすぐにも言うの、予測してだか、ふんわりと微笑って下さった高見さんの優しい笑顔にほだされて、知らずこっくりと頷いてた小さな少年。その上で、あのですね…と耳打ちされた小さな企みへ、


  「〜〜〜〜。////////」


 そりゃあもうもう、真っ赤になって。それから、あのその…えっとと、どうお返事したらいいのやら、落ち着きなくしてしまったの、それへもまた、微笑ましいことですねと目元たわめて見やった高見さんであったりし。



   さて、此処で問題です。
(苦笑)








  答え;


  「クリスマスが来る前に、
   どうしてもどうしても内密に作りたいものがあると、
   清十郎殿下がお言いになられましてね。」

 殊に、セナ様には内緒にとの箝口令をおしきになった“それ”というのが。

 「先日来から、
  裏庭に小さな小部屋を増設なさっておいででしたでしょ?
  執務室からしか入れない作りの。」
 「はい。
  執務室の真下の、それは分厚い床を、
  工部の方々が難儀して掘っておいででしたから。」
 「実はあそこには、
  専用の石釜、オーブンを作っておいでなのですよ。」
 「えっと?」
 「そこでこっそりと、
  これらを使って、
  21日までにあるものを作ろうという魂胆を抱えておいででしてね。」


  「〜〜〜〜〜えっとぉ。////////」


 よろしいですか? これらはあくまでも“私が”取り寄せたもの。うっかりした手違いからセナ様の目に留まってしまいましたが、それ以上のことは“何も知らない”セナ様ですので。喩え、裏庭から甘い匂いがし始めても、焦げた匂いが立ってしまっても。はたまた、殿下が時折 お召しものへ粉をくっつけておいででも。どうかどうか、知らん顔を通して下さいませよ?


 くすすと微笑った高見さんだったのへ、
 頬を真っ赤に染めつつも“頑張ります”と約束した、
 小さなセナくんだったのを。
 一番遅れて咲いたミニバラが一輪、
 可愛らしいことですねと微笑うよに、揺れつつ眺めていたそうな。






  〜Fine〜 09.12.05.


  *あああ、またぞろ進さんご本人が出て来なかったぞ。(う〜ん)
   毎度のハロウィンには間に合わず、
   残念ながらご登場願えなかったので、
   こんな格好で引っ張り出してみました…の、
   例の王国の皆々様ですvv
   相変わらずに平和なお国で何よりですが、
   人間、暇だとロクなことをやらんというか…。
(笑)

   とはいえ、あの仁王様、
   もとえ、荒くたい殿下のすることですから。
   どんなに腕のいい先生がついたところで、
   ほんの半月かそこいらで、ケーキ作りをものに出来るとも思えない。
   不器用ではないものの、
   毎日のように、お召し物のどこかに粉やクリームや、
   時には でっかい焦げ跡とか
(笑)つけて現れるもんだから。
   “これに気づけないほうが不自然では?”と高見さんが頭痛を抱えるさなか、
   きっとセナくん、ハラハラした挙句に、
   2日と保たずにお手伝いさせてくださいとか言い出すんですよ。
   いや、それでは何にもならんのだが。
(苦笑)

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